1407近年の動き

 近年、戦後からの動向や流れとは異なる動きが目立つようになってきました。それらが新しい潮流になるかどうかはわかりませんが、今日の社会や経済を成り立たせている諸要素間の均衡関係の一部にずれが生じてきていることは確かです。新しい動きをいくつか指摘しておきたいと思います。

140701 都市集中からの脱却 -近年の動き

 変化の一つは、過疎地や地方部に移住する人が、全体からみれば少数に過ぎませんが、あらわれてきていることです。高度経済成長期以降の全国総合開発計画によっても地方の産業開発や人口増加が試みられましたが、地方部人口は減少し続けました。しかしその後も農山村の地域振興、人口増加の模索は続けられ、地元の地方公共団体、NPO、農林水産省、総務省などによってさまざまの取り組み、施策が行われました。

 かつて若者は、より高い収入と豊かな生活を求めて、農山漁村を離れました。今日農山漁村に移住する人びとは、都会の物質的豊かさや利便性、情報・文化、刺激ではなく、農山漁村の自然環境や精神的豊かさ、安定を求めている場合が多く、その価値観は以前とはまったく異なると思われます。

 都市生活は個人や家族にとって、理想的とはいわなくても、ほぼ全面的に望ましい生活とかつては思われていました。しかし今日では、インターネットや通信販売、流通システムの整備などによって、どこにいても都市と同じような情報、文化、物的環境を享受することができるようになりました。また都市の生活では、仕事や生活環境、人間関係などでストレスを感じることも多々あります。対して地方部には、所得は低いものの、かつては重視されなかった自然環境や平穏な生活がある、とみられています。都市的価値観だけでない、多様な価値観が受け入れられるようになったことが、農山漁村移住の背景にあると考えられます。

 小田切徳美氏らの調査によると、地方への移住者数は、2009年に2,864人で、その後も増加して2014年には11,735人になりました[*14-6]。同氏によると、「移住者は量的に、全国に満遍なく分布しているのではなく、大きな偏りが」あり、「2014年度では、上位5県(岡山、鳥取、長野、島根、岐阜)で47.6%の移住者を集めており、それは、以前より大きな変化はない」と指摘しています。また移住には、就業機会、住宅、コミュニティが大きな障壁になっているが、そのハードルは次第に低くなっているとも指摘しています。ただ、移住が地域的に偏っているという事実からは、ハードルを低くするための取り組みや可能性が、地域によって異なっていることが推測されます。

 地方で自立した生活を送るには、高齢者は年金に頼ることができるとしても、年金受給年齢に達していない場合は、自営するなり勤めるなりして生活費を得る必要があります。単身者が、地域高齢者と助け合いながら自給的に共同生活している例はありますが、家族で生活するにはそれなりの収入が必要です。

 必要な収入を得ることができなければ生活は成り立たちません。収入を得ることのできる条件を拡大すれば、潮流として確立するでしょうし、そうでなければ、移住は限定的になります。


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