09.バブル経済期

0901 バブル経済と消費

 1985年から1991年にかけての「バブル経済」期は、高度成長期に大きく展開し、安定成長期に熟成されてきた生活スタイルや生活価値観が歪に奔出したものともいえます。

 1971年にはアメリカドルの金兌換が停止され(ニクソンショック)、それまでの1ドル=360円の為替固定相場が変動相場に移行しました。1970年代は310円程度で推移しましたが、高度経済成長によって日本の産業が力をつけたことを背景に、1980年代前半には200円台半ばになりました。

 1985年に先進5カ国の蔵相・中央銀行総裁による会議が開かれ、実体経済を反映せず実力以上だったドル高を、ドル安に誘導するためにいわゆる「プラザ合意」がなされ、円高となりました。日本銀行は内需拡大政策のもと金融緩和を行い、資金調達が容易となりました。その影響として、不動産をはじめ株や美術品が融資・投資の対象となりました。土地需要が拡大し、地価が急に上がり始めました。企業や団体、個人は、資産価格の上昇によるキャピタルゲイン(売買差益)を期待してあらゆる資産を買い漁り、財テクブームが起きました。本来の価値以上に取引価格が騰貴してバブルが発生しました。

 円高になったことで海外製品はもちろん、輸入原材料を使う製品価格も安くなって物価全体が安定し、実質所得が増えました。これにより海外旅行ブームや空前の消費ブームが起こりました。高度経済成長期においても「消費の高度化」と、必需品から「必欲品」への志向が進みましたが、バブル経済期においては、商品自体の機能性や品質が高度経済成長期のものよりも著しく高度化していた上に、消費実態もその時期を上回るものでした。例えば高級車や外国車、海外製の高級時計、大型テレビ、大容量冷蔵庫などが飛ぶように売れ、海外旅行者数も増えました。

 消費者の行動について1989年「経済白書」[*9-1]は、「高度成長期は物中心であったが、現在では心の豊かさを指向しており、質的に大きく変化している。」「物を揃える、使用するということではなく、より高級品,あるいは自分の個性に合致した商品を選択して、その使い心地を満喫するといった指向が強まり、それが心の豊かさに繋がる。また、物の面以外でも個々人が嗜好に即して趣味を楽しみ、教養を高めあるいは健康を増進するといった欲求が強まり、そうしたレジャー、余暇を享受することによって心の豊かさを実感する。こうしたニーズの実現が生活の充実感につながると考えられる」と述べています。

 さらにそのような家計行動の変化要因として、(1) 物価の安定と所得水準の上昇、(2) 資産の蓄積、(3) 消費者ローンやクレジットカードの普及、(4) マルチインカム世帯(共働き世帯)の増加、(5) 消費傾向に対する企業の対応、があると分析しています[*9-2]。

 消費者について三島万里氏は、「円高によってもたらされた第三の消費革命の担い手は、独身・ヤングDINKS(Double Income no Kids)世帯、35~44歳代のマルチインカム=DEWKS(Double Employed with Kids)、および高所得層であり、その舵取り役は女性」と指摘して、「第三の消費革命は『女性主導型革命』であり、その生成発展に社会構造の変化が果たした役割は大きい。第一は女子労働力化率の上昇である。80年から88年にかけて男子雇用者は9.6%しか伸びていないのに対し、女子は22.3%も増加した。女子従業者にしめるパート比率も上昇し、88年には23.7%となった」と指摘しています[*9-3]。

 DINKS、DEWKSは当時の流行語ですが、以前からある共働き世帯に他ならなりません。女性の社会進出や消費生活、経済活動に及ぼす影響の拡大によって、共働き世帯が新しいライフスタイルとして社会的認知を得たともいえます。


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