第1部 終戦から高度経済成長初期

02.終戦直後

0201 終戦直後の住宅不足

 戦時中、都市部の住宅は空襲対策として「住宅疎開」によって取り壊されたり、実際に空襲で焼失したりしました。戦後、都市部では住宅不足でした。国勢調査によると1950年の東京都の人口は628万人、普通世帯数は141万世帯で、準世帯(寮、下宿、間借りなど)数が3万世帯(26万人)でした[*2-1]。これに対して住宅数は、1953年の「住宅統計調査」(1998年から「住宅・土地統計調査」)によると129万戸で、甚だ不足していました。ちなみに住宅の内訳は持家が78万戸、借家が51万戸、給与住宅10万戸で、持家率は60%でした。

 東京都における1940年と1951年の調査を比較すると、区部では、都心から下町方面の住宅が激減し、山の手の世田谷区、杉並区で世帯数が増加しました[*2-2]。

 大阪府でも同様に住宅は不足していました。1950年の人口386万人、普通世帯数87万世帯、準世帯数1万世帯に対して、1953年の住宅戸数は71万戸でした。内訳は、持家33万戸、借家38万戸、給与住宅3万戸で、持家率は46%でした。

 全国的にも、住宅数は不足し、1950年の全国人口は8,411万人、普通世帯数1,662万世帯、準世帯数15万世帯、1955年に全国人口が9,008万人、普通世帯数1,754万世帯、準世帯数58万世帯となりましたが、「住宅統計調査」では1948年に1,385万戸、1958年に1,743万戸で、住宅数は世帯数をいぜん下回っていました。住宅不足は人口が転入する都市部でいっそう深刻でした[*2-3]。

 住宅不足に対して住宅建設はどうだったのでしょう。1951年から1955年にかけての全国の住宅着工戸数は年間20万戸台で、5年間に121万戸でした。そのうち持家(注文住宅)と分譲住宅は89万戸、貸家23万戸で、貸家は2割にも届きませんでした。一方で世帯数の増加は、154万世帯です。もともと住宅不足だったうえに、人口・世帯のさらなる増加によっていっそう不足するようになっていました。

 
 図 新設住宅戸数の推移

 東京都の1951~1955年の住宅着工戸数は21.7万戸で、世帯数の増加数は36万世帯でした。神奈川県でも世帯数が10万世帯の増加に対して8万戸強、大阪府でも14万世帯の増加に対して11万戸と、まったく建設が追いつかない状態でした。

 さらに、都市部に転入する人口の多くは若者でした。当時、若年の単身者は、寮・寄宿舎に住んだり、下宿や間借り、住み込みをする者が多かったと推定されますが、結婚すれば多くの新婚世帯は借家を借りようとします。既述のように借家の建設は進んでいませんでした。借家建設が低調だった理由として、終戦以前に施行され、戦後になってもGHQが維持した地代家賃統制令や借家法・借地法(現・借地借家法)などの影響がありました。1951年の「建設白書」[*2-4]には、一般物価が戦前の200倍以上に上がっているのに対して戦前住宅は統制令によって家賃が25倍程度に抑えられていることや、新築借家の家賃は高額であるため勤労者の家賃負担能力が不足するなどの理由で、営利事業としての借家は建設されていない、との分析が示されています。

 1955年「経済白書」[*2-5]では、戦前からの借家家賃について、「・・・大部分の借家の家賃も、地代家賃統制令の対象となっていて、戦前より借家人が継続居住している借家の家賃は非常に低いし、給与住宅の家賃は実質給与の一部をなし家賃が据置かれて非常に安いなど各種の事情に基づいている」ことが低家賃の原因であると指摘し、戦後の借家については、「ところが新しく住宅を求める場合、第一に借家については権利金、または敷金など負担したうえに非常に高い家賃を支払わねばならない。家賃調査によると民営借家で戦前建築のものは1坪当たり平均93円であるのに、戦後建築のものは242円となっている」と指摘しています。

 戦前からの借家は家賃統制のために、修繕が必要となっても費用をまかなうだけの家賃収入がないという状態でした。新築借家であっても、古く低家賃の借家が混在するなかで、家賃を新築に見合って高く設定することはむずかしかったと想像できます。従前から借家経営をしていた家主にとっても新規に始めようとする家主にとっても、経営環境は厳しいものでした。民間の借家経営の難しさはその後も、今日に至るまでさほど解消されていません。

 1954年「経済白書」[*2-6]には、「同居世帯のある住宅は昭和25年当時より若干減少して全住宅数の1割となったが、一人当たり畳数については25年とほぼ同じく3.3畳で、また一人当たり2畳未満の住宅が19%も存在している。このような住宅の量的不足や過密居住は、京浜、阪神、北九州工業都市において目立っている。」「住宅建設は八方ふさがりに追い込まれた形であるが、結局もとをただせば建築費の高騰にあり、中所得層以下にあってはわずかに公営住宅、公庫住宅等、財政支出関係の住宅に途が開かれているに過ぎない。単に建築費のみではなく宅地価格も、その上昇率は鈍化したとはいえ、空閑地の縮小化は避けられないので、宅地難は拡大するであろう。従って、特に大都市においては住宅及び宅地問題をいわゆる大都市問題として総合的に配慮すべき段階にあると考えられる」と記されています。


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