1404 世帯の小規模化・脆弱化

 人口減少の原因の一つである未婚者は、1980年ごろからその比率が顕著に上昇してきました。2015年には、生涯未婚率が男性23.4%、女性14.1%となりました。単独世帯は、かつては若年層が主体でしたが、次第に中高年齢層の比率が増してきました。

 20歳代の男性の給与水準は、1970年代以降相対的に低下してきています。30歳代は20歳代よりも高い水準ではありますが、長期的に低下しています。一方で女性の給与水準は、男性にくらべて著しく低いものの、わずかずつ上がる傾向にあります。とりわけ30歳代女性は、20歳代男性の水準に近づいています。専業主婦志向が男女とも強いとすれば、男性の立場では、自分の収入だけで家族生活を維持することには不安を覚えるでしょうし、女性の立場では、十分な収入のある結婚相手が少なく、当面は自立した生活を続けるという選択をしやすくなってきたのでしょう。

 東京都の女性就業率は、もともとは全国平均よりも低かったのですが、1990年ごろから急に上昇しています。未婚の就業女性が増加しているとみられます。同じ兆候は、東京大都市圏と大阪大都市圏でみられます。

 結婚条件として、とりわけ男性側にある程度の収入のあることが重視される傾向は以前からありましたし、今日でもあると思われます。しかし現実には若年層の就業環境は厳しさを増してきました。1990年代から完全失業率が高くなり、1990年代後半からは非正規雇用者率も高くなってきました。女性の場合は、もともと中高年齢層がパートとして働くことが多いために非正規雇用者率が高かったのですが、若年女性の就業率が高まるとともに、若年女性の非正規雇用者率が高くなってきました。

 このような就業環境、給与水準は、一時的な改善があるものの、全体としては厳しさを増しているようにみえます。そうだとすれば、未婚率が低下する可能性はきわめて小さいと言わざるをえません。未婚の若年層の多くが中高年となり、生涯未婚率はさらに拡大していくと思われます。

 平均世帯人員は、1950年代までは約5人でした。その後減少し続け、2015年は2.4人となりました。3人以上の世帯は、減少もしくは停滞し、2人世帯も2000年以降は微増、1人世帯のみが増加し続けています。また高齢夫婦世帯やひとり親と子供などが増え続ける一方で、夫婦と子供の核世帯数は1990年ごろから減少し始めました。

 
 図 家族類型別世帯数

 また地方部を中心として、1980年代までは3世代が同居する世帯もある程度存在しました。世帯員がそれぞれに役割をもち、相互扶助していました。しかし世帯の小規模化や世帯員の独立性が強まったことによって、世帯内で世帯員の世話を十分に行うことは困難となりました。また、かつてのような家族の結束、連帯が弱まり、個人中心の意識が強まってきました。そのなかで世帯員がそれぞれに独立して、残された世帯員が高齢化して、過大な負担となる老老介護が強いられる事例や、引きこもりの成人を老親が支えるという事例も増えてきました。

 例えば高齢者介護を、家族任せにするのではなく公的に行うための制度整備が進み、国民を個人単位で支える考え方は浸透してきていると言えます。かつては世帯内で行われていた介護や育児などのサービスを、世帯自身が生み出すことが困難な場合に、公的機関や外部機関が提供することは理念・原則とされるようになりました。このような理念がきわめて妥当であることは、現代社会において論を俟ちません。しかし現実との間に大きなギャップがあることも確かです。

 世帯の小規模化、単独世帯の増加、あるいは高齢化が進んでも、社会的な支援制度が整っていて、必要なサービスを適切に受けることができたり、サービスを購入するに十分な経済力を世帯がもっておればさしたる問題はありません。しかし現実には、公的な支援制度も世帯の経済的能力も十分とはいえず、それらが改善する見込みも薄いと思われます。世帯の小規模化は、世帯の脆弱化と表裏一体となる恐れがあります。


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