0506 消費の多様化

 所得は高度経済成長期に急速に上昇しました。「民間給与実態統計調査」における全業種の平均給与は、高度経済成長期の1953年から1973年にかけておおむね年率5%から15%の伸び率を示しています。同じ時期の消費者物価指数は0%から10%程度であり、給与の伸び率は物価にくらべて毎年約5%前後上回っていました。年々生活が楽に、豊かになることが実感できた時代でした。

 
 図 消費者物価指数と給与平均の変動率

 高度経済成長期を通して物価は上昇し続けましたが、今日の物価水準と比較すればかなり低い水準でした。食料品や被服・履物の物価指数は2015年指数の2割程度でした。これらが4~5割に急上昇したのは第1次オイルショック後の1974年でした。全体的に物価が低水準であるなかで、高度経済成長期の物価指数が2015年の5割強だったのは電気製品を含む家具・家事用品でした。家具・家事用品は2000年代まで他の品目よりも高い水準でした。

 
 図 消費者物価指数

 一方で家計支出は、既述のように終戦直後には、消費支出(税金や保険料などの非消費支出を含まない)のうち、食料への支出が50%前後、被服及び履物が10%台半ばでしたが、徐々に、家具・家事用品や、交際費・旅行・理美容などの「その他の消費支出」、教養娯楽費などが増えてきました。電気洗濯機や電気釜、白黒テレビが普及し始めました1956年ごろからは家具・家事用品への支出が急伸し、その後1970年代にかけて5%程度の水準を保っています。

 「もはや『戦後』ではない」と記した1956年「経済白書」が、「消費増加の方向が、食、衣から次第に家具什器など耐久消費財やサービス関係に向いている」と指摘したことは既述です。さらに1960年「経済白書」[*5-26]は、価格が相対的に下がったことによって「・・・テレビと電気冷蔵庫の購入増が最も著しく、またテレビの購入世帯の中心が高所得層から中低所得層に移った」と記し、1962年「経済白書」[*5-27]では、「高所得者における電気冷蔵庫、電気掃除機、ステレオ装置、石油ストーブ、等の購入が増加」し、「旅行を楽しむ人も増加」していると指摘しています。

 1966年「経済白書」[*5-28]では、電気製品は買いかえや2台目需要があらわれてきているとみており、自動車の需要も増えてくると予想しています。1950年代の「三種の神器」にかわって、この時期から、カー(自動車)・カラーテレビ・クーラーの「3C」が人びとの消費意欲をかき立てる商品になってきました。

 しかし家計は徐々に制約されるようになっていきます。家計の実支出のうち、非消費支出(税金や保険料など)は1960年代までは10%程度でした。ところが1970年代から拡大しはじめ、65歳以上人口が10%を超えた1980年代には20%、2010年ごろからはさらに高率にになりました。高度経済成長期は、収入の大半を生活の必要と望みのままに支出できた時期でもありました。

 
 図 実支出中、家計支出の構成(2人以上の勤労世帯)


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