1206 給与の格差

 すでにみたように、高度経済成長期の給与上昇は年間10~20%前後という急激なもので、その後もバブル経済期までは数%以上の上昇率を維持しました。国税庁の「民間給与実態統計調査」には1978年以降の、1年以上勤続する給与所得者(正規雇用と非正規雇用)の給与階級別人数が記載されています。男性の給与階級の分布は、女性よりも高い給与水準に偏っていますが、給与階級の動向は類似しています。

 バブル経済期終盤の1990年にかけて、男女ともに「300万円以下」から下の階層が急速に縮小し、「400万円以下」をはさんで、「500万円以下」と「800万円以下」の階層が急速に拡大しました。その後1990年代の給与階級の構成比率には大きな変化は認められませんが、2000年から2010年にかけて、男性では「300万円以下」から下の比率が少し拡大し、「800万円以下」の比率が縮小しました。女性では「200万円以下」の階級の比率が高まり、「300万円以下」がやや縮小しました。この時期、給与は下降気味でした。2010年以降はやや回復し、男性では「800万円以下」、女性では「500万円以下」の、高い給与階級の比率が拡大し、低い給与階級が縮小する傾向があります。

 
 図 1年以上勤続者の給与階級別給与所得者数(男性)
 
  図 1年以上勤続者の給与階級別給与所得者数(女性)

 「民間給与実態統計調査」には、1年未満勤続者の所得階級別人数も1996年以降は記載されています。調査対象は、12月時点で勤続1年未満の者です。パート従業員が大半ですが新入社員も含まれます。人数としては、1年以上勤続者数に対して、男性は10数%、女性は20%台半ば前後です。

 1年未満勤続者の給与は、期間が12か月に満たないことにも原因がありますが、「100万円以下」などの低い給与階級が多くなっています。「100万円以下」は、男性では1996年に40%程度でしたが、2000年ごろに50%前後となり、2010年ごろからは60%程度となりました。女性の場合はさらに高率で、1996年に64%、2000年ごろには70%を超えました。「100万円以下」と「200万円以下」を合わせた比率は、男性は1996年で64%でしたが、2000年ごろからは70%前後、女性では、1996年以降90%前後で推移しています。

 勤続1年未満の給与を、1年以上勤続者と比較することはむずかしいのですが、勤続期間が平均6か月と仮定すると、給与を2倍すれば1年間分の給与となります。したがって「100万円以下」は、「200万円以下」に相当すると想定することができます。いずれにしても低い給与水準であるには違いありません。

 1年以上勤続者にも非正規雇用就業者が含まれていますが、1年以上勤続者の給与は、2010年代に低い階層の比率がやや縮小しました。しかし一方で、1年未満勤続者の「100万円以下」の低い階級はほとんど縮小していません。1年未満と1年以上勤続者を合わせるならば、低い給与階層の比率は、2010年ごろに最大になって以降、大きくは変わっていないといえます。また、1年未満勤続者の「100万円以下」層の平均年齢は男女とも、2000年代半ばまでは30歳代半ばで、2010年代には40歳に近づきました。「100万円以下」層は転職を繰り返している可能性があります。

 「民間給与実態統計調査」には業種別の給与平均も記載されています。2007年に業種分類が変更されたために、業種別の長期動向を追跡することはできませんが、高度経済成長期から縮小していた業種間格差が2000年ごろから拡大しているようにみえます。金融業や情報通信が高く、サービス関係の業種で低くなる兆候があります。また農林水産・鉱業は1980年以降下降し続けています。

 図 業種別平均給与(各年平均を100とする)

 同調査には株式会社の正規雇用者と非正規雇用者の企業規模(資本金)別の給与平均が2012年から掲載されています。正規雇用者の給与水準は企業規模によってかなりの格差が認められます。正規雇用者全体の給与平均を100とすると、資本金2000万円未満の企業の正規雇用者給与は76で、5千万円~1億円の企業は91です。これに対して1~10億円の企業は106で、10億円以上の企業では135です。資本金が最も少ない企業と大きな企業との間にはほぼ2倍の格差があります。

 
 図 企業規模(資本金)別、正規・非正規雇用の給与比率(正規雇用平均を100とする)
   2017年

 ところが非正規雇用の給与は、企業規模には関係なく、正規雇用者の平均給与に対して30~38の範囲にとどまっています。正規雇用者のなかでもっとも低額の資本金2000万円未満企業の正規雇用者にくらべてもほぼ半分です。

 同じ調査には株式会社の企業規模別の役員給与が表示されています。株式会社役員の給与は雇用者給与と性質が異なりますが、それだけに給与格差をみる上で象徴的ともいえます。同調査の資本金区分は時期により変化しています。時期ごとの相対的な資本金規模によって比較してみます。

 雇用者給与と同様に、役員給与平均を100とする比率で表すと、1960年代までは資本金100万円未満の会社の役員給与は60程度、1億円以上の企業は250前後でした。おおむね4倍です。高度経済成長期後の安定成長期とバブル経済期にはその格差は、80程度と200以下の、2.5倍程度にまで縮小しました。ところが、1990年代後半から拡大に転じ、資本金2000万円未満80、10億円以上300程度の、4倍弱にまで拡大しました。

 図 企業規模(資本金)別、役員の給与平均(各年の全役員平均を100とする比率)

 1990年代後半から、全体としての役員給与は停滞している中で、大規模企業の役員給与は、2011年と2012年の極端な高額は例外であるとしても上昇傾向にありました。10億円以上企業の役員給与は上昇傾向にありますが、役員数は2000年の18万人をピークとして大きく変動しながら減少しており、2010年からは6万人から11万人となりました。より少ない役員がより高額な給与を得るようになったようにみえます。

 なお雇用者の給与と役員給与との関係は、2012年から2017年の期間は、役員給与平均と、資本金10億円以上企業の正規雇用者給与平均とがほぼ同じです。


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