1202 アルバイト・パートの常雇化

 1980年代になると、以前からあったアルバイトやパートが変質してきました。かつてのアルバイトは学生が中心で、定期的なアルバイトとしては家庭教師や警備員、夏や冬の季節的な仕事や不定期な仕事としては、ペンションなどのスタッフ、年賀状配達、引越作業などがありました。アルバイトの目的は、1950年代までは生活費や学資を稼ぐことが主で、アルバイトをするのも困窮する学生がほとんどでした。1960年代には生活のためではなく、次第に旅行や趣味、物質的な豊かさを実現するという目的が主となり、一般学生もアルバイトをするようになってきました。つまり生活費の不足分を補うためのやむを得ない目的から、楽しく快適な望ましい生活をするためという積極的目的になり、アルバイトは学生にとって当たり前のことになっていきました。

 一方でアルバイトの雇用主の側でも、かつては繁忙期や人手不足の手伝いという位置づけでしたが、経営の合理化が進むと、現場の人手不足対策としてアルバイトが重要になってきました。業務内容が整理されて、初心者が作業や運用ができるようにマニュアル化がされたり、正規社員が行っていた業務の一部をアルバイトに任せるようになってきました。さらにアルバイトを引き留めるために、正規社員に準じた待遇をしたり、卒業後に正規社員として採用する企業もあらわれてきました。

 とりわけファストフードなどの外食産業やスーパーマーケットなどの小売業では、アルバイトとパートが主戦力になってきました。1985年の調査によると、ファミリーレストランのパート比率は74%、ファストフード店は60%でした[*12-3]。アルバイト雇用経験のある企業の調査では、アルバイトが「会社の中心的労働力」とする企業が約4割、「従来、社員がやっていた仕事を与える」企業もほぼ4分の1で、男性アルバイトの2割が学校卒業者、女性アルバイトの25%が社会人、24%が主婦でした[*12-4]。アルバイトは補助的役割ではなく不可欠な存在になるとともに、学生を含む若年層から中高年齢層に至る広範な人びとにとって、就業の選択肢の一つになってきました。

 
 図 従業上の地位別就業者数(男性)
 
 図 従業上の地位別就業者数(女性)

 フリーターは、フリーアルバイターの略称であり、アルバイト情報誌による造語です。国の定義によれば、年齢が15~34歳の学校卒業者(女性の場合は未婚)で、パートまたはアルバイトの者、あるいは、現在は完全失業者、または非労働力人口で家事も通勤もしておらず、希望する仕事の形態がパート・アルバイトの者とされています。推計によると、1982年に50万人、1992年に101万人に倍増し、2002年に208万人とさらに倍増しました。その後は200万人程度で推移しています。

 フリーターが意識されだしたのは1980年代後半のバブル経済期です。1990年4月2日の朝日新聞[*12-5]には、「終盤に入った90春闘は今年も労働側の苦戦がささやかれ始めたが、『組織にしばられずに自由気ままな生活を送りたい』というフリーのアルバイターたちは、好景気の追い風をいっぱいに受けている。『フリーター』と呼ばれる若者たちで、20歳そこそこで月収40万円というケースもあり、春闘に期待をかける若い労組員からはため息が出そうな存在だ」との記事があります。

 さらに、「若者の定職離れの原因は若者の側にもあるが、企業側の方に問題が多くあるように思われる。その1つに、経済のソフト化に伴って労働時間とともに人材面のフレックス化が必要になっていることがある・・・今回の大型好況が始まった当初はどの企業も人手の増員に慎重で、生産や売り上げが急増しても採用抑制を続け、人手の足りないときはパート、派遣社員、季節工などの非正規社員で間に合わせようとした。その結果、非正規社員の需要が急増して賃金が高騰し・・・先日も労働組合の人が『今春は会社がようやく高校新卒者をかなり採用してくれたが、若いフリーターたちの賃金が3倍から4倍近いことを知って辞めていってしまった』と話していた。」[*12-6]という状況でした。

 ところが1993年を過ぎるとバブル経済後の不況で「就職氷河期」に入り、求人数が減り失業率も高くなってきました。「気ままなアルバイト生活を送っていた『フリーター』が長引く不況で一転、仕事探しに苦労している。景気低迷で、コンピューターソフト業界や製造業がアルバイトを真っ先に切るなど、求人が減っているためだ。一方、これまで労働条件が相対的に悪く、人手確保に苦労した外食産業などは、人集めが楽になり、時給を据え置くなど強気の構えを打ち出し始め」る状況に変わっていきました[*12-7]。

 就職が厳しいという状況になったにもかかわらず、自分の望む条件・仕事でないという理由で離・転職する若者は増えてきました。若年層の失業率の高さは、求人が少ないだけでなく、主体的理由によるところも大きくなりました。就業の選択肢の多様化を背景として、多くの若者の間には、生活のために仕事をするのでなく、自由な生活や自分に合う仕事を求めるという価値観が浸透していったとみられます。また、仕事内容や働き方の高度化、無機化や労働条件の悪化が進み、若年層の意識と実態としての仕事や労働との乖離が広がってきた側面もあります。

 
 図 学卒者の3年以内離職率


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