0502 電気製品の登場と普及

 1956年「国民生活白書」[*5-7]によると、そのころになると家具什器関係の消費が修養娯楽関係、衣料品についで著しく増加しました。家具什器の品目別には、古くからあったラジオ受信機、電気アイロンの購入量が急増しました。また蛍光灯(スタンド)、扇風機、電気冷蔵庫も購入されるようになりました。さらにテレビや電気洗濯機、ミキサーなども出現しました。電気器具以外には、(足踏み)ミシンやタンスなどの木製家具も増加し、ミシンは半数以上の世帯に行き渡っているとみられていました。戦後窮乏期を脱して生活水準が次第に向上してきました。

 
 図 主要耐久消費財の普及率

 電気洗濯機は三洋電機(2011年にハイアールが白物家電部門を合併)が、1953年に発売した噴流式洗濯機をきっかけとして普及しました。翌年にはすすいだ洗濯物を絞るためのゴムローラー付きの電気洗濯機が発売されました。1957年の普及率は20%、1961年には50%に達し、1970年代には100%近くになりました。

 冷蔵庫は、氷式や電気冷蔵庫が戦前にもありましたが一般家庭には普及していませんでした。1957年の電気冷蔵庫の普及率は2.7%に過ぎませんでした。しかし1961年にフリーザー付きの電気冷蔵庫が比較的安価に発売されると1965年に50%を超え1970年代には90%を超えるようになりました。

 1950年代前半ごろ、電気洗濯機と電気冷蔵庫に白黒テレビの3つの電気製品は「三種の神器」といわれ、庶民の垂涎の的でした。テレビ放送は1953年に開始されましたが、当初は全国に数千台の受像機しかなく、街頭テレビが人気となりました。しかし1959年の皇太子(平成天皇)ご成婚によって一気に普及し、1959年に33%、1965年に90%を超えました。

 三種の神器は1950年代には高価であり、入手が容易でなかったからこそ「神器」でしたが、1960年代末には世帯の9割程度が保有していました。高度経済成長が多数の世帯に恩恵を与えた証です。また、それらを使用することで生活自体に変化が生じました。とりわけ1955年に東京芝浦電気(現・東芝)が発売し他社も追随した自動式電気炊飯器と、三種の神器のうちの電気冷蔵庫、電気洗濯機は家事作業の効率化に大きな影響がありました。

 炊飯は、かつてはかまどで薪を焚いたり、都市ガスやLPGガスを用いる家庭もありました。いずれにせよ炊飯中は火力調整が必要で、炊き上がるまでの小1時間程度は目を離せない家事作業でした。その点で電気炊飯器は水加減をしてスイッチを入れるだけの操作と、後片付けだけであり、主婦は調理時間から解放されました。電気炊飯器は1960年には3割弱、1971年には90%に普及しました[*5-8]。

 電気洗濯機も家事合理化に有効でした。それまでは、汚れた衣服などを水に浸して、洗濯板を使い手で揉んだり擦ったりして洗濯をしており、かなりの重労働でしたし時間もかかりました。電気洗濯機によって時間と重労働とが不要となりました。とともにそれまでよりも多くの洗濯物を洗濯することが可能となりました。

 洗剤は、洗濯機を使うには粉末か液体でなければなりません。洗濯板で洗濯するには固形石けんが使われ、洗濯機があらわれても粉末石けんが使用されましたが、洗濯槽などに石けんかすが付着することが難点でした。1951年に鉱油系の合成洗剤が発売されると、電気洗濯機の普及とともに合成洗剤が使われるようになりました[*5-9]。

 電気冷蔵庫も家事作業の合理化に大きな役割を果たしました。かつては肉や魚などの傷みやすい食料品が欲しい時は、その都度買い物に出かけたり、御用聞きを利用していました。電気冷蔵庫に保存できるようになると毎日の買い物の手間がなくなりました。普及し始めのころの電気冷蔵庫は90リットルほどの容量しかありませんでしたが、それまでは敬遠されがちだった食材が使いやすくなったり、買い物の手間が軽減されました。冷蔵庫には、96%の家庭でバターが保存されていました。次いで牛乳、肉類、ハム、開けた缶詰、果物、魚、ジュース、マヨネーズ、卵は、8割以上の家庭で冷蔵庫に保存されていました[*5-10]。1950年代後半には乳製品など洋風の食生活が普及していたとみられます。

 電気洗濯機は洗剤の改良と相まって洗浄力が向上し、脱水機能が充実し、さらに乾燥機能が追加されていきました。電気冷蔵庫は容量が大きくなり、冷凍機能が充実していきました。食料品の冷蔵・冷凍技術の発達や冷凍食品の出現ともあいまって食料品の買い物時間は大幅に短縮されることとなりました。

 電気製品の必要電力は、電気炊飯器が600W、洗濯機が100~150W、冷蔵庫120W、テレビ150W、電気掃除機250~300Wなどでした[*5-11]。電気製品が普及するにつれて生活は便利に、電力消費量は急速に増加しました。

 電気製品などの普及は家事を効率化したと思われます。が、家事時間の短縮になったとはいえないという研究結果もあります。「家庭用電化製品や新洗剤が大幅に普及した分野である洗濯、掃除時間にはほとんどみるべき変化がないこと、同じく電気製品や既製・半既製食品が商品として大量に家庭内に入り込むわりには炊事時間にむしろ増加がみられた。このことは、機器や新製品は、個々の家事労働内容やその質、個々の動作やその時間を変化させはするが、生活という総合の場で他の生活時間諸要素とも関連して、家事的生活時間そのものの短縮をもたらすとは限らず、逆の場合もありうることを示すものである」[*5-12]。

 電気製品などによって家事の省力化・効率化が進み、家事の質が変化し、家事時間を短縮したり、多くの家事をこなすことが可能になりました。これによって生活の自由度が拡大したと考えられます。1959年「国民生活白書」[*5-13]には、「このような生活態度の変化としては第一に戦後持ちこまれたアメリカ文化のより楽しく暮らそうとする生活態度の影響があげられる。これまでわれわれに強制されていた勤倹貯蓄などの耐乏生活と全く正反対の便利で能率的な生活をたのしむという方向に代わっている。・・・第二に生活の高度化、合理化あるいは便利で快適な生活への強い関心があげられる。・・・第三に若年層の消費ないし生活態度が中年以上の人々と異なっていることである。」とあります。

 電気製品の普及は、食料品、洗剤などの関連製品の普及をともない、相乗効果によって生活を便利にしていきました。と同時に、電気製品と関連製品それぞれに、いっそう便利に、良質に、安価にするための改良が加えられました。


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