1304 空き家と地域空洞化

 空き家は、適切に管理され、断続的にでも使用されていれば大きな問題は起きません。しかし管理が不十分で放置されれば、近隣環境に悪影響を与えます。また空き家は、居住者がいないことから人口減少や地域活力が低下するという問題にもつながります。逆にとらえれば、空き家の発生状況は、将来的に世帯減少の可能性が大きいとか、住宅に問題があるといった、地域の状況をもある程度反映します。また、把握は困難ですが、市街地内で空き家の家屋が取り壊された跡地も、空き家と同様に地域環境に影響します。

 空き家の戸数実態は「住宅・土地統計調査」で把握することができます。ただ空き家であるかどうかはある時点の判定ですので、いずれ使用されて空き家でなくなる可能性もあります。同調査の「空き家」は、賃貸用・売却用の住宅と、別荘のように常時は居住していない二次的住宅とに分類されています。

 賃貸・売却用や二次的住宅を含んだ空き家は、必ずしも問題のある空き家というわけではなく、余剰住宅であり、人口や世帯の流動性を容易にする役割もあります。全国の空き家率は1960年代までは数%に過ぎませんでしたが、「住宅統計調査」によって全都道府県で住宅数が世帯数を上回ったと確認された1973年に、空き家率は5.5%、172万戸となりました。その5年後の1978年に7.6%に急増し、5年ごとに約1%ずつ高くなって、2013年に13.5%、820万戸に達しました。2018年は増え方が鈍化して13.6%、846万戸でした。高度経済成長以降、人口の流動化、とりわけ都市部への移動が進んだことが空き家増加の大きな要因と考えられます。

 
 図 空き家数

 都道府県別にみると、地域の特徴をうかがい知ることができます。2018年に空き家が20%程度となった都道府県は、山梨県や和歌山県、長野県、四国地方4県、鹿児島県などです。関東地方でも栃木県、群馬県は約17%程度です。西日本などの地方部で高率傾向があります。逆に10%前後の低比率の都県は南関東や愛知県、沖縄県です。それ以外は15%程度となっています。二次的空き家を除いた空き家数は、2018年では全国で808万戸であり、二次的空き家が空き家全体の中に占める割合は大きくはありません。二次的住宅を除いた空き家率は、別荘が多い長野県でやや低い以外は、空き家全体に関する都道府県の傾向とほぼ同じです。

   
 図 二次的以外の空き家率(1998年)  図 二次的以外の空き家率(2013年)

 賃貸・売却用の空き家が多い原因は、地方部では、人口、需要が少ないことに原因があると推定できますが、需要のあるはずの都市部であまりに空き家が多い場合は、住宅自体や地域環境に原因があると考えられます。二次的住宅を除いた、賃貸・売却用などの空き家率が高い市区町村は、利便性の高い都市部のなかでは、大阪市東住吉区24%、同市西成区24%など大阪市の周辺区に多くみられます。東京都でも豊島区は16%とやや高くなっています。これらの地域は戦前から戦後の早期に形成された住宅地であり、木造家屋が戦災に遭わずに比較的高密に分布している地域です。

 二次的住宅と賃貸・売却用住宅を除いた、「その他の空き家」は、使用される見込みがもっとも低い住宅と考えられ、2018年に全国で347万戸です。「その他の空き家」率は、高知県や鹿児島県、和歌山県、島根県で10%を超えています。西日本と北陸地方、東北地方などで高率であり、都市部では、東京都2%、神奈川県3%、愛知県、大阪府、福岡県は5%以下です。市区町村単位でみても、都道府県同様に地方部の遠隔地で空き家率が高くなっています。

 放置された空き家は、時間とともに老朽化し、倒壊、火災などの危険や、景観上、衛生上の悪影響を近隣に及ぼすようになります。2013年の「住宅・土地統計調査」の結果で状況が知られるようになったことをきっかけに、多くの自治体で、所有者への勧告や解体費用の助成などの空き家対策が検討、実施されるようになりました。

 空き家化の原因は、地方部では雇用機会を求めての人口流出などの人的要因、都市部では住宅や居住環境の問題などの物理的要因がそれぞれ強い傾向があると考えられます。いずれの場合も、高齢者などが空き家多発地域に取り残されたり、高齢者自身の住まいが空き家となることが多いという共通点があります。

 空き家増加や人口減少によって、自治体によっては行政サービスの不効率化が浮上してきました。高度経済成長期以来、市街地は拡大し続け、道路や上下水道などのインフラストラクチャーや福祉などの行政サービスの対象となる地域は広がり続けてきました。インフラストラクチャーの維持やサービス提供は、対象面積が変わらなければ人口が減少してもコストや手間が大きく減ることは見込めません。自治体財政が逼迫するなか、2000年ごろから、持続可能な都市経営やサービスの効率化・向上、環境保全などの目的で、中心市街地を活性化することで拡散した市街地をコンパクトにしようとする動きがでてきました。


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