13.人口の局所集中と空洞化

1301 人口の東京、都心集中

 1980年代から日本の人口増加は鈍化し、2008年の推計人口1億2,808万人をピークとして減少に転じました。都道府県単位の人口は、1990年代から地方部で減少が始まり、2000年代になると、首都圏1都3県と沖縄県、愛知県、滋賀県で2%以上増加した以外は、停滞か減少するようになりました。さらに2010年から2015年にかけて、多くの県で3%以上、一部では5%前後も減少しました。2%以上増加したのは、東京都と沖縄県だけになりました。

 日本全体の人口が停滞・減少するなかで都市部、とりわけ都心に人口が集中したために、地方部などでの人口減少、過疎化がいっそう進行するとともに、多くの既存市街地、住宅地でも人口が減少しました。東北地方や西日本、北陸地方では、2000年以降減少傾向が強まりました。高度経済成長期には地方部の若年層の4割前後が都市部に転出していましたが、2000年ごろからは、若年層の転出は2割以下になってきています。それにもかかわらず人口が減少する原因は、若年層が高度経済成長期のころにくらべて少なくなったことに加えて、合計特殊出生率が低くなったためにほかならなりません。

 東京圏1都3県への人口移動は、バブル経済期後の1993~1995年に停滞しやや転出超過になりましたが、その期間以外は転入超過が継続しました。東京圏のうち東京都は1967年以降、東京圏の中で唯一転出超過を続けていましたが、1997年から転入超過に転じました。その原因は、20歳前後の人口は縮小しながらも相変わらず増加し、他方でかつては著しかった30歳前後人口の減少が小さくなったことにあります。

 東京都の人口のうち、団塊の世代を含む1945~1950年生まれの人口は、30歳前半になると20歳代のときの人口の67%に減少し、その後も減少し続けました。1930年代から1950年代前半生まれの東京の人口はおおむねこのような経過をたどりました。ところが1960年代生まれ以降から、あるいは1990年ごろからパターンが変化してきました。

 
 図 年齢層別人口推移(コーホート)-東京都

 1960~1964年生まれは、ピーク時の20~24歳時にくらべて、35~39歳時には75%に減少しましたが、その後の減少はほとんどなく、40歳代後半になった2010年にはわずかに増加しました。1970~1974年生まれは、減少は95%にとどまり、30歳代後半の2010年には増加に転じました。1975年から1984年生まれになると30歳前後となっても減少せず、むしろさらに増加する気配すらあります。1990年代からは、20歳から30歳前後の人口が東京に流入してきているとみられます。

 東京圏のうち埼玉県と千葉県では、もともと30歳前後での人口増加が顕著でした。しかし次第にそれぞれの県内で出生、あるいは親世代とともに転入した子供世代の人口が増加し、30歳前後で県外から転入する人口が少なくなってきました。むしろ20歳代前半で転入してその後転出しているようすが、わずかにうかがえます。神奈川県は、20歳前後で転入して、その後は人口が維持されるパターンが戦後続いていますが、県内生まれの人口が増える一方で、転入数は縮小してきています。

 
 図 年齢層別人口推移(コーホート)-埼玉県
 
 図 年齢層別人口推移(コーホート)-南関東(1都3県)

 とは言っても、人口が増加した首都圏などでも、増加する市区町村は一部に限られるようになってきました。首都圏では、2000年ごろから都心マンションが供給されるようになって、それまでは減少していた都心で人口増加がみられるようになりました。区部のなかで練馬区・江戸川区では以前から増加していましたが、それ以外では、まず世田谷区で増加が始まり、ついで江東区、港区などの臨海区で増加しました。

 
 図 人口増加率の変化-東京都特別区

 他方で、首都圏の縁辺地域、例えば埼玉県の北部や神奈川県の西部、千葉県の北東部では、1990年代までは人口増加が認められましたが、2000年代にはそれらの地域の人口が停滞するようになりました。2010年から2015年の首都圏の人口増加は、東京都区部と川崎市、横浜市、さいたま市とその隣接地域などに限られるようになり、それまで増加していた、東京都国立市、多摩市、八王子市や、千葉県市原市、埼玉県所沢市、入間市などではわずかながら減少しました。

 大阪都市圏の人口は、全体としては停滞していますが、そのなかでも2000年ごろから首都圏と同様に、都心集中傾向がはっきりしてきました。1990年代前半までは大阪市などで人口が減少して、郊外地域で増加していましたが、1990年代後半から郊外地域での人口増加が一部の市に限られ、一方で大阪市西区や北区、中央区、浪速区、天王寺区など、それまで人口が減少していた都心と都心隣接地域で超高層マンションが建設され、人口が増加しました。京都市では中京区、下京区などで、神戸市でも都心区で増加し始めました。この傾向はその後さらに続き、2010年から2015年にかけて増加したのは、大阪市、神戸市、京都市の都心と、大阪府吹田市、滋賀県の草津市、大津市などごく一部に限られるようになりました。かつて人口増加が著しかった大阪府の高槻市、茨木市や、兵庫県宝塚市、奈良市などは減少または停滞しました。都心に人口が集中する傾向は東京圏と同様でしたが、大阪圏と東京圏との違いは、大阪圏の人口増加地域がさらに限定されていることです。

 
 図 人口増加率の変化-大阪市

 さらに、同じ市区町村内でも、人口が増加、安定する地区と、減少や高齢化する地区とが隣り合うような、人口動向の局所化ともいえる状況が目立ちます。市街地で木造家屋の老朽化が進む地区の近くで分譲マンションが開発されて完売し、空き家が発生する郊外の古い住宅地の隣の地区で一戸建て分譲住宅が開発されて完売する、といった状況です。それまでの住宅地開発は、郊外では更地が用いられ、市街地では工場などの跡地や都心再開発などによって進められてきました。人口が停滞、減少して各地に空き家、空き地が発生するようになると、利便性がより高い地域で、リノベーションや建物の用途変更なども含めて、より小規模な単位で行われるようになってきました。


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