11.消費環境の変化

1101 規制緩和・市場自由化

 高度経済成長期に日本の貿易黒字は拡大し、諸外国と経済摩擦が生じていました。アメリカは1960年代から日本に対して資本と貿易の自由化を求めていました。さらに貿易不均衡の是正のために1966年に鉄鋼、1971年に繊維、1981年に自動車、1986年に半導体の輸出を抑制するための協定が結ばれました。

 1981年には、国の財政再建を目的に臨時行政調査会が設置されました。臨時行政調査会では行政改革と公的企業の民営化などが提案され、なかでも公的企業の民営化が推進されました。公的企業は、国から制度的にも財政的にも保護されており、民間企業にくらべて不公平であるという側面と、国の政策によって合理性を欠く経営を強いられているので運営が非効率であるという側面とが指摘されました。国の財政悪化とともに民営化が進められ、民間企業と競争が求められるようになりました。

 民営化された主要な企業のうち、日本電電公社は東西に分割されて、1985年にNTTグループとして発足しました。同年に日本専売公社がJTとなり、国鉄は6地域に分割されて1987年にJRグループとなりました。さらに2007年には郵便事業の民営化が実施されました。

 公的企業は、市場が成立しにくく、民間企業が参入しにくい分野で活動することを建前としています。利潤追求でなく公共の利益を理念としていましたが、民間の経済活動と同じとみなされて市場化され、合理化・効率化や利潤確保が求められるようになりました。他方で、公的企業には事業内容などに制約がありましたが、それらは段階的に緩和されることになりました。

 1989年からアメリカは、日本の社会・経済構造が保護主義的で閉鎖的、排外的であるとして、個別分野ではなく、構造自体を改革して国際的基準(グローバル・スタンダード)を反映することを迫るようになってきました。一方で国内でも、民間企業は不況や内外需の縮小、人件費の高騰を背景として企業経営の変革が迫られていました。

 1987年「経済白書」[*11-1]には、「企業は業務内容の再検討による経営構造の再構築(リストラクチャリング)に動きはじめて」おり、その内容は、1) 人件費や設備投資の抑制や既存分野の縮小撤退などの経営資源の再構成、2) 研究開発・企業合併への投資や高収益の財務戦略などの新たな事業展開、3) 海外投資や国際連携、生産・調達、経営全般のグローバリゼーション、などであると報告しています。

 国の財政悪化や外圧、競争力を増強したいという国内事情など、厳しい経済環境を受けて、さまざまの分野で規制緩和や市場開放が進められました。1990年代半ばからは構造改革、行政改革が政府の主要テーマになりました。

 小売業に関しては、消費者の利益と地元小売業の事業機会の保護や正常な発達を目的として、1974年に「大規模小売店舗法」(略称:大店法)が施行され、百貨店やスーパーマーケットの出店に際しては店舗面積や営業時間などに関して地元と調整することとされていました。ところが1990年に大店法の店舗面積や営業時間が緩和され、小規模な小売店に少なくない影響を与えました。個人の小売業の売上や従業員数は1980年代にすでに停滞していましたが、1990年代になると明らかな減少に転じました。なお1998年に大規模小売店立地法や中心市街地活性化法などが制定され、大店法は2000年に廃止されています。

 
 図 店舗当たり床面積別、オープン時期別ショッピングセンターの床面積

 運送業でも規制緩和が行われました。1990年の貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法施行により、免許制が許可制に、運賃も認可制から届け出制に緩和され、新規参入が容易となって価格競争が行われるようになってきました。折からの不況の影響もあり、千葉県では3社に1社が赤字経営となっていたといいます[*11-2]。

 バス・タクシーについては、2002年に道路運送法が改正されて、需給調整規制が廃止され免許制から許可制となり、数量規制も廃止されました。さらにバスについては運賃上限が認可制から届け出制となりました。新規参入によって競争が激しくなり、利用者に便利になった側面があります。しかし無理な運行や、採算性の低い地域での運行が廃止されるなどの弊害もあらわれるようになりました。

 雇用の自由化、流動化も進みました。雇用については労働基準法の第1条に「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」とされ、労働条件に関するさまざまの規制があって労働者の権利を保護しています。その一方で1960年代から、企業の求めに応じて労働者を派遣する事業者があらわれました。派遣労働者の立場は不安定でしたが、1986年に労働者派遣法が施行され、労働者派遣は公認されるようになりました。

 同法は、「派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。」とされ、労働基準法の一部を準用することになりました。しかし待遇面などはあいまいであり、派遣労働者の立場が安定するものではありません。

 規制緩和はあらゆる分野に及び、あらゆる分野で競争が激化しました。企業にとっては生き残りをかけた競争です。品質やサービス向上といった質的競争も追求されましたが、同時に、コスト削減、人員や賃金削減による価格競争と利潤追求も重要になりました。この状況は、消費者には大きなメリットとなる側面もありましたが、不採算企業・部門の廃業、切り捨てや経営収益の追求を目的とする商品展開など、消費者のデメリットとなる側面もありました。さらに、就業者には高い成果が経営者から求められ、経営者にも厳しい競争のなかで収益性の確保が求められるようになりました。


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