1207 生活困窮世帯の増加

 「相対的貧困率」は、全世帯の等価可処分所得の中央値の半分の値を「貧困線」と定義し、この貧困線を下回る等価可処分所得にある世帯の割合と定義されます。等価可処分所得とは、所得から税金や保険料を差し引いた可処分所得を、世帯人員の平方根で割った値です。「国民生活基礎調査」に基づいて推計される「相対的貧困率」は2000年以降15%から16%です[*12-13]。

 「相対的貧困」は、簡単にいうと、他の世帯にくらべて相対的に所得が低いということであり、実際に生活に困窮しているとは限りません。しかし、世帯主が30歳未満と65歳以上の世帯、世帯類型が一人親と子供、および単独世帯に多いことからは、そのような世帯が相対的に、経済的に厳しい状況にあることは推定できます。

 相対的貧困が統計的な計算によって求められる指標であるのに対して、「生活保護」は、生活状況や所得や資産などを行政機関の担当者が調べたうえで実施されるために、実態的貧困を表しているといえます。

 1946年に施行された旧生活保護制度は、戦後の引き揚げ者や戦災被災者、失業者への対策として施行されました。現在の生活保護法は、これを全面改定し、憲法25条の生存権理念に基づいて1950年に制定されたものです[*12-14]。生活保護法第1条には、「この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」、第3条には「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。」とあります。

 生活保護法施行直後の1956年の被保護人員は205万人、世帯数は70万世帯で、国民の2.4%が保護対象でした。その後高度経済成長期とバブル経済期に被保護人員、世帯数は減少し続け、1995年には、88万人、0.7%にまで減少しました。なお、被保護世帯の平均世帯人員は、初期の3人弱から縮小し続けており、近年は約1.3人になりました。

 しかし1990年代後半からは一転して、被保護者数が増加し続けています。増加の速度は急で、2012年には1951年の被保護人員数を上回りました。1951年から30年近くをかけて被保護人員が減少しましたが、十数年で初期の人員数に戻ったことになります。その増加の中心は高齢者であるとされています[*12-15]。高齢単身の被保護世帯が増加しているとみられます。

 
 図 生活保護被保護世帯数・人員

 2013年の生活保護法一部改正によって、被保護者に対する就労支援が行われることになりました。2015年度の就労支援事業の対象者は34万人で、36%が参加し、さらにその45%が就労によって増収を得たといいます(前掲資料)。健康な若中年層が就労によって生活の改善を実現できたとみられますが、すでにみたように雇用自体が厳しい状況にあります。また被保護の高齢者は就労困難で、かつ単独世帯である者が多いと推測されます。高齢者の増加にともなって、生活保護に加えて、高齢者介護の課題が複合的に重くなってきました。


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