1205 「ブラック企業」の出現

 2000年ごろから失業率が改善したことは既述ですが、そのころから、形式的には正規雇用者であっても労働環境が著しく劣悪な職場が問題となってきました。不適切な雇用契約や長時間労働、賃金未払い、パワーハラスメント、最後には自主退職を迫る、といった企業は「ブラック企業」と呼ばれるようになりました。ブラック企業の被害に遭ったのは主として新入社員であり、そのような状況を打開することを目的に2006年にNPO法人POSSEが20歳代の大学生や社会人を中心に結成され活動を始めました[*12-11]。

 2018年の「過労死等防止対策白書」によると、勤務問題を原因・動機の一つとする自殺件数は、1982年までは千件未満でした。その後1997年までは千件から千数百件となり、1998年以降は2千件弱、その後増加し、2011年には2,689件となっています。2017年に1,991件に減少はしていますが、かなり高い水準です[*12-12]。

 
 図 自殺者数

 労働環境の悪化に対処するために、2010年代半ばから府県自治体などを中心として、働き方改革の取り組みが各地で始まりました。そうしたなか、2013年にNHK記者が過労のため心不全で亡くなっていたことが、2017年に公表され、2015年に電通社員が過労で自殺していたことが、2016年に公表されました。日本を代表する企業や団体での事件は、労働環境の深刻さを改めて認識するきっかけになったといえます。

 ブラック企業を典型とする労働環境の悪化は、就業者の勤労意欲を損ない、人材を使い捨てることにもなり、日本の経済活動と健全な社会の阻害要因になります。政府は2018年に「働き方改革実現本部」を立ち上げました。とともに、2017年には働き方改革のための法律整備が行われることになりました。働き方改革関連法案は2018年に成立しました。主な内容は、時間外労働の上限規制の導入や、正規・非正規の不合理な待遇差の解消などでした。ただし労働時間については、一部の専門職を規制の対象外とすることになりました。


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