1305 単独世帯の存在感

 未婚化が進むとともに、1990年代から分譲マンションを購入する単身者も目立つようになってきました。「CRI」[*13-8]には、「『週間住宅情報』が行った首都圏の購入者調査で、マンション購入者のうち25%を男女単身者(結婚予定も含む)が占め、独身女性だけでは10%程度となって」いました。年齢層は「30歳~34歳が42%と最も多く、次いで35歳~39歳が29%」などでした。「週刊住宅情報」主催のセミナーに参加した単身者の7割近くは、分譲マンションを購入する理由として、「家賃がもったいない」「住宅価格の下落」「ローン金利の低下」「老後の不安」などをあげたと言います。

 1999年に岩下久美子氏が、「女性がひとりで快適に外食をしたり、旅をすることを応援する『おひとりさま向上委員会』」を提唱しました。同氏の著書『おひとりさま』の「おわりに」[*13-9]には、「もともと『ひとり客』の呼称である『おひとりさま』に、私が『“個”として自立した女性』という新しい意味づけ・価値観を持たせるきっかけとなったのは、女性のひとり客に対して、飲食店や旅館が冷淡だった背景がある。『おひとりさま』は肩身が狭い。店に居づらい。・・・も少し、この状態を向上させたいとの願いから『おひとりさま向上委員会』を立ち上げたのである」と記されています。

 自立した女性は、1990年ごろにはすでに珍しくはありませんでしたが、それが消費者として脚光を浴び始めたのは岩下氏の「おひとりさま」の主張などがきっかけであると推定されます。

 2004年9月18日付け朝日新聞[*13-10]は、「『おひとりさま』が注目を集めている。都会のシングルライフを前向きにエンジョイする女性たちだ。30代以上の独身女性を指し、・・・その行動力や購買力はあなどれない。存在感を増す『おひとりさま』市場に対応する動きも目立ってきた」として、住宅供給をはじめ、住宅ローン、高級ホテルや老舗旅館、飲食店、旅行などで女性の単身者向け商品があらわれてきていることを紹介しています。また、スーパーマーケットでも1990年代後半から一人暮らし用に惣菜や食品を少量ずつ販売するようになりました。

 分譲マンションも、もともとは家族向けが主流で、2000年ごろまでは大型化していました。ところが2000年前後から「コンパクトマンション」と呼ばれる、50㎡台までの小型の分譲マンションが一定戸数供給されるようになってきました[*13-11]。単独世帯が、過渡的や副次的存在でなく、社会的にも商業的にも確固とした存在として認知されるようになってきたといえます。

 岩下氏の「おひとりさま」は、個として自立している大人の女性を指していましたが、上野千鶴子氏は『おひとりさまの老後』[*13-12]で、ひとり暮らしとなった老後の女性の生活の知恵や考え方、生き方を著しました。とはいえ、高齢化と未婚化が進み、さらに死別だけでなく離別も増えてくると、「ひとりさま」は女性だけでなく、男性にも共通の課題となってきました。

 2014年7月15日の「エコノミスト」[*13-13]は男性を含む「おひとりさま」の特集でした。藤森克彦氏は「配偶者と死別した高齢者や、未婚の中高年男性の一人暮らしが急増している。結婚をして同居家族がいることを『標準』としてきた日本社会において、単身世帯の急増は衝撃であろう。しかし、これは個人の生き方や家族のあり方が多様化していることの象徴でもある」[*13-14]と指摘しています。未婚率はすべての年齢層で男性の方が高くなっています。高齢者数は女性が男性を上回っていますが、65歳未満の単独世帯数は男性の方が圧倒的に多数です。今後の高齢人口の増加とともに男性の高齢単独世帯が増えていくと予想されます。

 
 図 性別、年齢別単独世帯数


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