0905 未婚率の地域傾向

 東京都の生涯未婚率は、1975年ごろから全都道府県のなかでやや目立つようになりました。出生年が1920年より後の世代です。繰り返しになりますが、東京都では、1930年から1950年代生まれの、30歳前後の人口が他県に転出する傾向があり、1940年代生まれにもっとも特徴的でした。1940年代生まれの世代では、20歳代前半のときの人口に対しての転出率は、男性は4割程度、女性は3割程度に及んでいました。転出先とみられる近隣他県の性比はさほど変わらないことから、転出者の多くは結婚していたとみられ、また住宅水準の向上などを求めた転出だったと推定されます。

 一方で、東京都にとどまった人口は、男性の転出数の方が多かったために、30歳代になると性比はおおむね110以下になりました。しかし国勢調査報告の労働力状態のデータから推測すると、東京都では未婚の就業者も多かったとみられます。1995年の国勢調査報告によると、35~39歳(1950年代後半生まれ)の人口のうちの未婚就業率は、男性で東京都27.6%、全国19.5%、女性では東京都15.1%、全国7.8%でした。なおこの年齢層の東京都の性比は108.7でした。

 2015年の35~39歳(1970年代後半生まれ)の未婚率は、男性が東京都22.4%、全国25.4%、女性は東京都18.5%、全国17.9%となりました。東京都の未婚就業率は、男性では低下し、女性は2000年以降、横ばいでした。それにくらべて全国の未婚就業率は、男性は東京都に逆転し、女性は倍増して東京都に近づきました。

 表 未婚就業率
 

 生涯未婚率は、2000年前後から、東京都以外の道府県でも高くなっていきました。その傾向はまず男性で2000年ごろからあらわれ始めて、2010年になると都道府県の差が小さくなってきました。女性の場合は、東京都をはじめとする都市部で高率であるという傾向が2010年ごろまで顕著でしたが、2015年になると都道府県の差が縮小してきました。それでも東京都女性の生涯未婚率19.2%は、次いで高率の北海道の13.5%、大阪府の13.2%と比較しても高さが際立ちます。いずれの場合でも、都市部で未婚化が先行し、次第に広がっていきました。

 
 図 都道府県別生涯未婚率(男性)
 
 図 都道府県別生涯未婚率(女性)

 1970年代までは、東京都をはじめとする都市部は働く場所という認識がありました。実際に都市部の住宅事情は家族で生活するには厳しく、家族生活のためには郊外や他県に居住する傾向がありました。その結果として、都市部で未婚率が高い傾向があったように思われます。しかし、都市化が全国に及んで、高学歴化と女性の社会進出が進み、さらに労働環境が多様化するとともに、全国的に晩婚化し、未婚率が高くなっていったとみられます。

 「出生動向基本調査」は、国立社会保障・人口問題研究所が1940年からほぼ5年ごとに実施しています。そのなかに、1992年から2015年にかけて「独身でいる理由」という設問があります。35歳未満独身の男性・女性で多い理由は、「適当な相手にめぐり合わない」が男性で37~38%、女性で40%を超える程度で、「必要性を感じない」は2000年ごろまでは男性で37~39%、女性で40%程度でしたが、近年にはいずれも30%程度にまで低下しています。これをみると、少なくとも1990年以降、結婚への願望はむしろ高まってきています。

   
 図 独身でいる理由(35歳未満男性)   図 独身でいる理由(35歳未満女性)

 女性の回答の特徴は、「独身の自由さや気楽さを失いたくない」が1990年代の32%から2015年には23%に低くなる一方で、「今は、仕事(または学業)にうちこみたい」が1992年24%から2015年34%に高まっていることです。女性の職業意識が高まってきているとみることができます。男性の特徴は、「結婚資金が足りない」が女性よりも高率で、1990年代20%程度から2005年以降は27%程度にまで高くなってきていることです。男性の場合は経済的理由がより切実になってきたと考えられます。

 山田昌弘氏の造語である「パラサイト・シングル」は、同居親に住居費や食費などの基礎的生活コストを依存しながら、自分の収入は自分の生活や娯楽に充てる単身者を意味します。高度経済成長期後、消費生活は増大しましたが、その裏付けとなる所得は、とりわけ若年層では十分ではありませんでした。「豊かな親の元に育った若者にとって、結婚はもう、生活水準を下げるイベントとなってしまった。」また、専業主婦志向が男女ともに多いために、「不況の中、そして、将来の収入に不安が残る中、結婚できない人が増大している」と分析しています[*9-8]。

 高度経済成長期には、地方部の多くの若者が親から離れて都市部へ流入しました。彼らは親と離れて就業し、生活するしかありませんでした。しかし流入者を親にもつ子供たちは、住み慣れた都市部で就職し、親と同居することができます。高度経済成長期に都市部に流入した親世代では、地方部にとどまったものだけが親と同居しながら就職することができました。その子供世代は、都市部にあっても親と同居しながら就業することができるようになりました。

 若年層の結婚願望は時代で大きくは変わっていないとみられますが、経済環境や就業条件、消費環境が変わってきました。そのなかで男性は収入、女性は就業と収入とを重視することによって未婚化、晩婚化が進んでいます。さらに親に依存できる条件がある場合と、逆に老親の介護などが必要な場合は、その傾向がさらに強まったとみられます。


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